もうひとつ、36巻以前の復習をしていない読者が「そういえばこんな展開だった」と思い出しづらい要因として、37巻全体を通じて、“主人公格のキャラクター”の登場が極めて少ないことが挙げられるだろう。『HUNTER×HUNTER』の主人公はゴン=フリークスであり、ハンター試験からの盟友であるキルア、レオリオ、クラピカが主人公級のキャラクターと言えるが、381話「捕食」のトビラ絵で、ゴンに「あ、オレ 念使えないんだった」、キルアに「オレ、今どこ?」、レオリオに「出せコラ」と作者・冨樫義博自身が呟かせているように、37巻にはこの3人が登場しない。
一方で、カキン王国第14王子・ワブルの護衛として物語の本筋に絡んでいるクラピカが大活躍しているかというと、登場するのは37巻に収録された全10話中4話で、そのうち382話は1ページにとどまっている。現在進行形のエピソードに愛着のあるキャラクターが深く関係していれば、その文脈で前後の物語を思い出しやすいが、37巻は壮大で複雑なバトルの途上であり、多くの新キャラクターが暴れるパートであることが、ついていけない読者が少なくない理由のひとつだと思われる。
そのなかで筆者は、クラピカの“ファミリー”であるセンリツや、幻影旅団メンバーのノブナガやフィンクスなど、それぞれの立場で王位継承戦に絡んでくるお馴染みのキャラクターに注目し、彼らがどんな事情でひとつの船に乗り込んでいるのか、という文脈を思い起こすことで、再び『HUNTER×HUNTER』の物語に復帰することができた。特に幻影旅団は、ヒソカの裏切りとその制裁という、長く続くエピソードを色濃く引き継いでの登場となるので、文脈がわかりやすく面白くなる。
面白さの中に残酷さも拭えない理由として、こうした愛着のあるキャラクターたちも、冨樫義博という作家なら無慈悲に退場させてしまうかもしれない、という緊張感があることだ。謎多き「暗黒大陸」に向かう巨大な船、そのなかで行われる高度な知能戦において、無事ではすまないキャラクターも出てくることだろう。体調の問題から、安定的な連載が望めないかもしれないなかで、新キャラクターに愛着を持ち、物語を見失わないように準備しておくことも、ファンにとっては重要かもしれない。
リアルサウンド
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Source: 芸能トピ