放置しておいてもネタの邪魔になるし、チケットを購入して笑いに来ているほかの客に不快な思いをさせるわけにもいかない。真剣に注意すれば空気を悪くし、笑えるものも笑えなくなってしまう。不用意につまみ出せば悪評が立ち、翌日のネットニュースを騒がすことにもなりかねない。
基本的には客側のマナーの問題ではあるものの、問題が発生してしまえば、それを解決するのは舞台上の芸人しかいない。
その難題が、霜降り明星・粗品にも降りかかった。
粗品の個人チャンネル「粗品 Official Channel」で5日、1本の動画が公開された。
今年9月に行われた粗品の単独ライブの映像である。粗品が「客席の子どもが騒ぎ出したら、どうしたか」の一部始終が記録されている。
新作のフリップネタを披露する粗品。モニターに映し出された1枚のイラストを解説し、次のイラストで落として粗品がツッコむという、高校時代から採用しているフォーマットでのピンネタだ。
ところが、この1ネタ目のツッコミの後に、客席から子どもの声が飛んでくる。次のネタに進もうとしていた粗品が、ピクリと反応する。だが、何事もなかったかのようにネタは進む。
その後も、1ネタごとに子どもの声が入る。時には粗品のツッコミをオウム返しし、時には不明瞭な言葉を発する。
編集された映像だが、会場の緊張感が高まっていくのがわかる。ネタはウケるが、明らかに子どもの声が邪魔になっている。粗品はテンポを守りながら、その子どもの声をスルーしてネタを継続する。最初の一声にピクリと反応した以外は、耐えているのか、タイミングを計っているのか、ネタのウケと子どもの声がせめぎ合うような、ジリジリとした時間が続く。
それでも会場は、やはり1ネタごとに盛り上がっていく。それに呼応するように、子どもが声を発する機会も多くなる。粗品と子どもの声が掛け合いのようなリズムで入ってしまった、その3ターン目だった。
「なぁ、ホンマ!」
大仰にそう言いながら、粗品が身体ごと子どもの声に向き直った。ついに耐え兼ねたとも、満を持したとも見えるタイミングだった。ともあれ、観客は爆笑した。間、言葉選び、声量、表情、そのひとつにでも違和感があれば、たまりにたまり切った客席のフラストレーションの矛先が、一気に子どもとその親に向かうことになっていたはずだ。
ここからも圧巻だった。粗品はフリップを進行しながら、子どもとの掛け合いをネタに織り込んでしまった。粗品が子どもの声に反応してツッコむたびに爆笑が起こるようになる。
その後のトークコーナーでも、粗品は親子をイジる。母親には「では、お帰りいただいて」などと釘を刺しつつ、子どもには優しく話しかける。「粗品、優しすぎるだろ……」と誰もが感じ始めたところで、子どもには絶対理解できないド下ネタを母親に叩きつけて、他の客の溜飲も下げさせる。真偽は不明だが、終演後、粗品は母子に歩み寄り「すんませんでした」と頭を下げたという話まで漏れ伝わってきた。
本物の「誰も傷つけない笑い」を見た。
粗品の個人チャンネルチームは、この動画に必要以上に細かいテロップを入れている。ともすれば聞き取れないほどの小さな子どもの声も際立たせる編集だ。
こういうことが起こった。粗品は、こう対応した。よく見ておけ。
粗品にはすでに、天下人の自覚が備わっている。
続きを読む
Source: 芸能トピ