■若者のテレビ業界への本音
「日本放送協会」の頭文字をとってNHK。だがいま「日本配信協会」に変わろうとしているのか。総務省に設けられた有識者からなる公共放送ワーキンググループで、NHKのネット業務を「補完業務」から「本来業務」へと格上げする議論が進んでいる。
しかし、放送と配信の両方の世界で働いている私は、放送を配信に変えれば済むほど簡単な話ではないと思う。
変わりゆくNHKをどう見ているのか? テレビ朝日(放送)、ABEMA(配信)、動画制作を目指す大学生たちに教える立場(若者)と、3つの立場を経験している筆者から見えるNHKの姿とその課題について述べてみたい。
「本当はテレビはあまり見ない。YouTubeをやりたいのだけれどウェブ動画制作会社は待遇が悪くて不安定。だからテレビ制作会社を就職先として考えている」
いまテレビ制作会社を志望している学生たちの本音はこんな感じだ。修業のつもりでテレビ制作会社で腕を磨き、いずれウェブ動画で勝負をかけたいと思う学生が増えている。
「テレビよりもウェブ」という意識のシフトは、学生だけではない。映像制作会社もテレビからウェブ動画制作へ軸足を移しつつある。地上波よりABEMAのほうが自由に制作できる。そして最高峰の仕事ともいえるのがNetflixなどの海外配信の番組だ。制作費が桁違いに高額で、世界規模の勝負ができる。
NHKなど各局がネット配信に注力する背景には、若者にも制作会社にも、テレビが相手にされなくなりつつあることも影響している。
■若年層にNHKの番組が刺さらない理由
学生たちはNHKを見ているのか? 答えは大きく二分される。あえて表現すれば、放送局への就職を目指すような難関大学の学生たちはNHKをよく見ている。制作会社を志望する普通の大学生たちはほぼNHKを見ない。
難関大学の学生たちがNHKを見る最大の理由は「新しい知識を得られるから」。賢い学生は知識を得られるツールとしてNHKを見ている。しかし番組の面白さという点で、「YouTube>民放>NHK」という図式は、難関大学の学生に限らずすべての若者に共通だ。
NHKの番組で、学生が見ていると口をそろえるのは大河ドラマ、そしてニュースである。意外にも若者たちはむしろ高年齢層向けとも思えるNHKの定番番組を好んで見ており、若年層をターゲットとしたNHKの番組をあまり見ていない。
なぜ若年層にNHKの番組が刺さらないのか? 私には大きな理由が思い当たる。テレビ業界とウェブ業界はまったくの別世界で、制作環境が大きく違うのだ。
ウェブの意思決定権者はとにかく若い。ABEMAの例だと、トップの藤田晋社長ですら40代。番組制作を統括する「チーフプロデューサー」級の決定権者は30代で、実働部隊のプロデューサーの主力は20代だ。若者が企画を提案し、若者が決裁して制作されるから、番組は当然、若者にぴったりフィットする。扱うテーマも恋愛などの身近なものが選ばれるし、出演者も人気の読者モデルなど若者が共感でき、親しみが湧く人物が選ばれる。
そして制作のスピード感が速い。ABEMAでは視聴者数など目標の指標に達しない番組はすぐに打ち切られる。企画は採用されやすいが、ダメならすぐ終わるのだ。テレビが基準とする1クールは3カ月で、ダメな番組でも最低3カ月は続くのとはずいぶん違う。
ではNHKの制作プロセスはどうか? ABEMAとはまるで逆といっていい。まず決定権者が圧倒的に高齢だ。トップは70代。チーフプロデューサーは50代。実働部隊のプロデューサーの主力は40代で、たまに30代の若いプロデューサーがいても、高齢の上司たちが次々に口を挟み、自由にさせてくれないだろう。
企画は、高年齢の上司たちが決定する。「若者向けの番組もやっている」とアピールできる企画を高齢者が選ぶので、必然的に「意識高め」の番組が増え、「若者たちの政治参画意識はいま」とか「国際社会の中でいま日本の若者は」みたいな、説教くさくて難しそうなテーマの番組ばかりになる。
■タレント出演料は民放より安い
結果、若者番組の体ではあるものの実際の視聴者は高齢者がほとんどで、「そうか今の若者はこうなのだな」と「高齢者が若者をわかったような気になる番組ばかり」という皮肉な事態になるのだ。
※以下出典先で
2022/12/31 5:30
https://toyokeizai.net/articles/-/642048
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Source: 芸能トピ