閉店の理由としては、新型コロナウイルスの影響により店舗での購入者数が減少し、代わりに通販事業が大幅に伸びた背景があります。とらのあなのIR資料によると、新型コロナウイルス流行前の2020年度の第一四半期は店舗での購入者数は約41万人で通販の受注数が119万件となっています。しかし流行が始まった第四四半期は店舗購入者数が12万人にまで減少していますが通販受注数は114万件とほぼ変化がなく、顧客が通販志向を強めているのが見て取れます。
2021年に入ると第四四半期には店舗購入者数24万人に対し通販が240万件と、通販事業がより活性化していることが分かります。
年間の数字を見ても、2020年度は店舗購入者数が118万人で通販が490万件、2021年度は105万人に727万件となっており、通販が圧倒的な伸びを見せています。特に女性向け同人誌販売に関しては通販が97%、池袋店が2%、残りの店舗で1%を分け合う状況となっており、オンラインへのシフトが顕著です。
また、2018年度からスタートしたクリエイター支援サービス「ファンティア(Fantia)」も順調に数字を伸ばしており、初年度は3億円だった流通総額は2021年度には71億円へと成長、2021年度は121億円の売り上げが見込まれています。
実店舗については今回だけではなく以前から閉店が続いており、特に2020年に入ってからは地方店舗のほぼすべてに加え、創業の地・秋葉原においても2店舗が姿を消しています。そのような状況にもかかわらず、とらのあなの流通総額は2020年度の222億7500万円に対し、2021年度は253億7900万円へと成長を遂げました。オンライン事業への注力は成功していると言ってよいでしょう。
直営店がほぼ閉鎖されたと言っても、リアルでのショップそのものが消えるわけではありません。とらのあなでは2019年から書店に販売コーナーを設ける「Shop in shop」やイベントでの出店を行なう「Pop-up Store」といった「in shop事業」を展開しています。2022年第四四半期には16のin shopが存在しており、場所も北海道に2店舗、関東に5店舗、東海地方は7店舗、中国地方に1店舗、九州に2店舗と、全国への広がりを見せています。今後もさらなる店舗数の拡大が発表されており、とらのあなのブランドはリアルでも健在です。
このようにとらのあなは固定費の削減を推し進めつつオンライン事業を拡大する方向で動いており、企業としては順調な状況にあります。ただし直営店を失った影響がどうなるかは未知数な部分があるのも事実です。
まず重要なのが、近年とらのあなは競合のメロンブックスに押されつつあったという点です。
コミックマーケットなどの同人誌販売イベントでは売れ残った同人誌やグッズを回収し、そのまま委託するサービスがありますが、2021年末に開催されたコミックマーケット99を筆者が取材した際に、メロンブックスの委託受付所は行列ができていましたが、とらのあなの委託所はそれほど人がいなかったのを確認しています。
これは同人作家にとって最優先されるのはメロンブックスであることを示しており、とらのあなの存在感が低下していることを意味しています。この状況下でのリアル店舗の閉鎖は、作家の心理にプラスの影響を与えるとは考えにくい部分があります。
また、リアルの店舗の場合はさまざまなジャンルの作品が所狭しと並べられており、興味のある本を買うだけではなく、ちょっと興味を引かれた目的外の本やグッズを購入する機会も存在していました。しかしオンラインでの購入は最初から興味のある作品や作家の本をそのまま買うだけのパターンに陥りがちで、知らない本を目にする機会が極端に少なくなる傾向にあります。
「in shop」は書店の一角などを借りて同人誌を陳列する形式のためスペースはそれほど大きくはなく、売れ筋の本を優先することになるため、同人誌が持つ大きな魅力であるすそ野の広さを生かすのは難しいと思われます。
とはいえ、とらのあなはそのあたりの状況やデメリットは承知の上でリアル店舗の閉鎖に踏み切ったと思われます。果たしてこれからの同人誌界をどのように生き抜いていくのか、とらのあなの決断の行く末に注目したいところです。
マグミクス2022.07.16
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Source: 芸能トピ