■意外とハードルが高い『めぞん一刻』の再アニメ化
令和に入ってから『犬夜叉』の続編が描かれたり、『うる星やつら』がアニメでリメイクされたりと、高橋留美子先生の作品が続々と脚光を浴びています。つい先日も『らんま1/2』の再アニメ化が決定し、大きな話題を呼びました。ここまできたら1980年代を代表する恋愛マンガの傑作『めぞん一刻』が再アニメ化される日も、そう遠くはないのかもしれません。
『めぞん一刻』は古い木造アパート「一刻館」を舞台として、主人公の「五代裕作」と管理人の「音無響子」によるラブストーリーです。1986年にTVアニメ化されているほか、これまで2度にわたって実写ドラマも放送されています。
世代を超えて愛されている作品のため、令和によみがえるとしたら大きな注目が集まりそうですが、そこにはいくつかの懸念点も存在します。当時は当たり前だった描写が現代では受け入れられないかもしれない、という可能性です。
『めぞん一刻』は上質なラブストーリーである反面、いわゆる「ムフフ」な展開も多く、「一刻館」の住人が女性の部屋をのぞき見したり、ラッキースケベな展開が繰り広げられたりすることもありました。裕作に至っては響子が寝ているのをいいことに、身体を触ろうとしたりキスしようとしたりする始末です。いずれも連載当時は広く受け入れられていた描写ですが、令和のラブコメ作品の読者には、「攻めすぎ」だと思われてしまうかもしれません。
また古き良き昭和の恋愛観を反映していることも、再アニメ化という観点ではネックになりそうです。恋愛と結婚がイコールで結びついていて、純潔を守るという価値観があるラブストーリーは、令和では絶滅しつつあります。
さらに時代設定が昭和であるため、ジェネレーションギャップを生んでしまう可能性もあるでしょう。当然ながら作中には、スマートフォンなどという代物は出てきません。「一刻館」の住人たちは自分専用の電話すら持っておらず、管理人室に一台だけある電話を響子に「取次」してもらっていました。プライバシーなど存在しないも同然で、そのことが物語を動かす要因になっているのですが、こうした描写は若年層には奇妙に映るのではないでしょうか。
一方で当時のクルマ事情も、作品の雰囲気に大きな影響を与えています。裕作の恋のライバルであるお金持ちの「三鷹瞬」は、日産の3代目「シルビア」に乗っていました。デートにクルマを使うことが一般的になりつつあった時代、シルビアは「デートカー」といわれる新しいジャンルの先駆けでした。そのためシルビアに乗って現れただけで、読者は「強力な恋のライバルが現れた」と瞬時に悟れたわけですが、今ではなかなか伝わりづらいでしょう。
ちなみに旧アニメでは、トヨタ自動車が番組スポンサーだったためか、「シルビア」がトヨタの「ソアラ」に変更されていました。ソアラも当時のデートカーの鉄板と言える車種です。もし『めぞん一刻』を再アニメ化するなら、今度は「ランボルギーニ」あたりに置き換える必要があるかもしれません。
こうして見ると、『めぞん一刻』が昭和の空気を色濃く反映していることが分かりますが、これは決して同作の欠点ではなく、大きな魅力でもあります。現代の価値観に合わせて逐一設定を変えると、もはや別作品になってしまうでしょう。もし再アニメ化が実現するなら、むしろ徹底的に原作再現を試みてほしいところです。
もう1点、ストーリーや設定とは別の懸念点として「キャスト問題」も無視することはできません。『るろうに剣心』や『SLAM DUNK』など、最近話題になった再アニメ化作品では大抵キャストが一新されており、『うる星やつら』も例外ではありませんでした。ですが『めぞん一刻』は島本須美さん演じる響子の印象が強いので、もし声優が変更されるとすれば、波紋を呼んでしまうかもしれません。
多くのファンに愛されているからこそ、再アニメ化のハードルは限りなく高そうですが、はたして『めぞん一刻』を現代によみがえらせることはできるのでしょうか?
ハララ書房
マグミクス2024.07.16
https://magmix.jp/post/242765
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Source: 芸能トピ