恵まれた家族に励まされる弱者男性
「超能力大決戦」は、『モテキ』や『バクマン。』の大根仁監督が手掛ける『クレヨンしんちゃん』シリーズの最新映画。野原しんのすけが、世界の破滅を望む暗黒エスパーの非理谷充(ひりや・みつる)と対峙する。
非理谷は“非リア充”をもじった名前から分かるように、社会に対する鬱屈を抱えた男性だ。幼少期から学生時代まで恵まれず、大人になっても仕事とプライベートが上手くいかない30歳。そして拠り所だった推しのアイドルも結婚し、心に傷を負ってしまう。
非理谷の造形は、貧困や非モテといった特徴によって語られる弱者男性の定義に当てはまっているが、作中では“彼をいかに救うのか”がテーマに。しかしその扱いが「無神経だ」と反発する人も多い。
「そもそも野原家は平凡な家族のような雰囲気を醸していますが、現代日本ではありえないほどの成功者たち。大黒柱の野原ひろしは典型的な“強者男性”です。そんな野原家の面々に弱者男性が『がんばれ』と励まされる展開は、残酷の極みでしょう。前向きなメッセージ性どころか、むしろ非理谷に共感して絶望する観客を多数生んでいます」(サブカル誌ライター)
「無敵の人」を生むリスク
ほかにもさまざまなフィクションで、弱者男性の存在感が増しつつある。先月発表された第169回芥川賞の受賞作である市川沙央の小説『ハンチバック』にも、弱者男性を自認する登場人物が描かれていた。
また、今年6月に『webアクション』で発表された岡田索雲の『アンチマン』は、ミソジニストのぶつかり、男を題材とした短編漫画として話題を呼んだ。
「ネット報道番組の『ABEMA Prime』でも、今年に入ってから、たびたび“弱者男性の生きづらさ”を議論する回が放送されています。ですが8月初頭に放送された『男性差別』がテーマの回では、荒唐無稽な主張に出演者が苦笑するような場面があり、ますます分断を煽る結果となってしまいました。
『超能力大決戦』も含めて、弱者男性を雑に扱っていい風潮が広がれば、それは迫害となり、無敵の人が生まれる危険性があるでしょう。
しかしその一方、“弱者男性の姫”とも呼ばれるストリーマーのたぬかなは、意外な見解を示していました。配信を見に来る弱者男性は普段《いないものとされている》ことにつらさを感じているため、罵倒されるとしても存在を認めてくれるたぬかなに好感を抱くそうで、《『存在してるよ』って女の私が言うことに意味がある》というのです。
不可視化されるよりはマシという心情らしいのですが、それほど弱者男性は追い詰められているのかもしれません」(同)
空前の弱者男性ブームは迫害なのか、それともある種の救済なのか…。いずれにしても「がんばれ」で解決する単純な問題ではなさそうだ。
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Source: 芸能トピ