発表によると、佐野さんについて、4月24日のイベント終了後に「お客様の自宅に訪問をする行為、及び私的交流が発覚」したという。
アイドルがファンと私的に交流したケースは過去にも発生しているが、ただちに「解雇処分」されるのはやむを得ないのだろうか。また、今回のような発表にはどのような意味があるのだろうか。芸能・エンターテインメント分野にくわしい河西邦剛弁護士に解説してもらった。
●解除や損害賠償、発表について法律的には異なる
事務所側の発表では「解雇処分」とありますが、実質的には、所属事務所とアイドルとの間で結んでいるマネジメント契約の「解除」かと思われます。
まず前提として、マネジメント契約書のなかに、アイドル側の義務として「ファンとの私的交流禁止条項」が入っているか否かがポイントになります。
仮に契約書にこの条項が入っていたとしても、必ずしも有効ともいえず、裁判所に無効と判断される可能性も十分にあります。
たとえば、アイドルの恋愛禁止条項については「異性との交際は人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権」であることを理由に、事務所側の損害賠償を認めない判決(東京地裁平成28年1月18日判決)が出ています。事務所側の解除については損害賠償請求よりはハードルが下がると考えられるものの、一方的な解除は無効と判断される可能性は残ります。
根底にある考えとして、恋愛や他者との交流など一般社会で自由な行為について、契約でどこまで縛ることができるのかということです。
結局は契約書の問題だけでなく、契約で禁止する必要性、具体的にそのメンバーが何をしていて、その頻度がどれくらいで、事務所側や他のメンバーにどの程度の影響や損害を与えたかがポイントになってくるでしょう。
もっとも、たとえばメンバーの1人が恋愛やグループイメージに反することをSNSで発信し続ければ、グループ運営が継続困難になることは容易に想定でき、事務所側としては他のメンバーの活動を守る必要もあります。
違反行為の程度次第ですが、事務所側としてはルール違反を理由に活動停止やグループからの脱退というのは取り得る方法かと思います。
●発表内容は慎重に…「名誉毀損になるおそれある」
事務所側の発表で「アイドルに契約違反が確認できたため、契約を解除した」というものがあります。
契約解除については、ファンや関係各社に対して発表する一定の必要性は認められるかと思います。しかし、契約違反がないのに「違反があったため」と発表すれば、名誉毀損になる可能性が極めて高いといえます。
問題になりうるのは、軽微な契約違反や契約ではないルール違反に過ぎないにもかかわらず「契約違反が確認できた」と発表する場合です。形式的には契約書に違反しているとしても、契約条項の法的有効性が否定される可能性もあり、名誉毀損になるおそれもあります。
大手芸能事務所であれば、実質解雇の場合でもメンバー本人のコメントを掲載しますし、発表内容について本人の確認をとらずに一方的に発表することも普通はありません。
事務所側は発表内容について本人の確認と承諾をとるスタンスが重要ですし、承諾がとれない場合にはかなり慎重に判断することが必要になってきます。
軽微な契約違反というケースでは、「本人と協議を続けましたが、マネジメントの継続が困難となり、双方合意のもと契約を終了することになりました」くらいが無難かと思われます。
【取材協力弁護士】
河西 邦剛(かさい・くにたか)弁護士
「レイ法律事務所」、芸能・エンターテイメント分野の統括パートナー。多数の芸能トラブル案件を扱うとともに著作権、商標権等の知的財産分野に詳しい。日本エンターテイナーライツ協会(ERA)共同代表理事。「清く楽しく美しい推し活~推しから愛される術(東京法令出版)」著者。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/
弁護士ドットコムニュース編集部
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Source: 芸能トピ